展覧会で買ってきた。

先日息子と2人で【かこさとし展】に行ったことはチョロリと書いたが、あの日からずっと頭の中をグルグル回っていることがある。

音楽の話でもなく、長い上に大したオチがある話でもないので、誰かに読んで欲しいわけではないのだが、あまりにも頭から離れないので書き残す。

この日、大好きなだるまちゃんシリーズの原画等を見て大いに興奮したのだが、「あれ?こんな話だったっけ?」とほぼ内容は記憶に残っていないことに気づいた。子供たちがこのシリーズを読んでいたわけでもない。なのになぜ私は、この手足の生えたダルマがこんなに好きなのだろうか…

私は幼稚園の時から英会話をやっていた。

正確には「やらされて」いた。

この英会話教室、一風変わっており教材は世界の名作絵本。専用機材とテープで、英語で流れてくるそれらの朗読を聞きながら、翻訳された絵本を読むのだ。

システムとしては音楽で言うところの【鈴木メソード】と同じだ。

今考えると相当なお金を注ぎ込んだと思われる大量の英語絵本と専用テープが我が家にあった。

私はこの英会話教室が小学校中学年にさしかかるあたりからやけに嫌になった。

確か金曜午後5時からのレッスンであったと記憶しているが、我が家に当時あったパタパタ時計が4:44になると「あぁ縁起が悪い。もういやだ。行きたくない」と心底ガッカリし、ちゃぶ台の下にもぐり込み寝たフリをする。四角いちゃぶ台はテレビ台にくっつけて置いてあり、できるだけそっちの方に身を寄せるのがコツだ。

なぜならば、4:50になると「あんた!また寝たふりして!行かないと許さないよ!」と鬼の形相の母が「掃除機のホースの先」「はたき」「ほうき」「布団叩き」いずれかのアイテムを持ってダンゴムシ状の私をバシバシと叩き、掻き出しにくるからだ。

この攻撃に30分ほど耐えると、敵は諦め「お休みします」と連絡を入れてくれる。10回に1回くらいは成功していたように思う。

なぜこんなにも英会話が嫌いだったか。

それは、どこからどう見ても日本人の、こけしにそっくりな、一重のウッスイ、ビーチサンダルのような平たい顔をした自分が英語を話す、という羞恥に耐えられなかったからだ。

どんな顔して「ヘロー」とか「ハワユー」とか言えばいいのか。心の中のもう1人の自分がいつも「ケッケッケ」と笑うのだ。いやだ、どうしても嫌だ!

当時同じ教室にF君という男の子がいた。彼はいつも鼻の下が鼻水でカピカピで、どう見ても「賢そうな坊ちゃん」とは程遠い風貌であったのだが、教材の絵本のタイトルコールをするのが非常に得意であった。特に「ピーターパン」は絶品で、皆が「F君、あれやってよ!」と言うと、それに応え「ペータープァーン!!!プァーン!」と得意気な笑みで叫ぶ。ちなみに最後のプァーン!はエコーである。そこまで再現するのだ。クラスは拍手喝采、大きな盛り上がりを見せる。

私は心底不思議だった。なぜ恥ずかし気もなく、鼻水を垂らしたあの顔で自信満々にあんなことが出来るのか。彼には羞恥心というものがないのだろうか。そもそも羞恥心とはなんなのだろうか。どこからやってくるのか。自分にしかないのか。そんなことを考えているうちに1時間のレッスンは終わるのだ。英語など何も身についていない。ただ羞恥心について、ひたすらぼんやり考えて時間が過ぎる。

発表会は地獄そのものであった。名作を英語劇にするのだ。しかもわざわざ新宿のホールに行って。

もう、英語プラス劇なんて、本気で勘弁してほしい。こんなくだらないことを誰が考えたのか。しかし発表会こそ逃げられるわけはなく、淡々と無表情で話せばどうにかなる「ナレーター」を毎回必死でゲットしていた。

もう辞めたい、と何度も頼み込んだが聞き入れてはもらえなかった。そんな中、教材にあった「だるまちゃんシリーズ」の絵本だけはなぜか好きで、寝っ転がってよく見ていた。もちろん英語文は分からないのだが、絵を眺めているだけで、なにか楽しかったのだ。しかし楽しそうに読んでいる姿を見られては、辞めるチャンスを逃すと思い、こっそりと寝たふり等をして部屋の隅で読んだ。

ちなみに「だるまちゃん」の他に「ぐるんぱのようちえん」にもハマっていた気がするが、こちらもまた内容を全く覚えていない。

毎週ダンゴムシになり、さまざまなグッズで叩かれ続けた私は中学生になった。英語が始まり、一馬身リードで授業が進むと思いきや、成績は全く振るわなかった。英会話教室では英語の成績が上がらないことにようやく気付いた母は、ついに退会届を提出し、私を「英語学習塾」へ入れた。

最後のレッスンの日の、ようやく解放された清々しさは懲役8年の刑を経て出所したかのごとくであった。

そんな日々を忘れ、私はフルートに没頭する学生となった。

とある日、新宿のムラマツフルートへ初めて行ったのだが。どうも初めて来た気がしない。

よくよく見ると、あの英会話教室の発表会をしていたビル(英会話教室の本社の入っているビル)であった。同じ建物にムラマツフルートが入っていたのだ!

なんと奇遇!なんと不思議な縁!私の過去の最大の苦しみと、今の最大の喜びの殿堂が、広い新宿の片隅で共存していたのだ!

そんなこんなで、だるまちゃんが大好きなのに内容は覚えていなかった謎等諸々が、遥か昔の記憶により解明された。

最近子育てをしていると、ふとこうして忘れていた子どもの頃の自分がひょっこり顔を出し、うぅっ…と苦しくなるのだ。

やはり歳をとった、ということであろう。

今は昔、アイドルなのか何なのか、歌って踊る「羞恥心」というグループがいたよな…とぼんやり考えている。

いつも芋づる式にどうでもいい記憶が湧き出てくるので、私の頭の中は、ボーッとした見た目によらず結構忙しいのだ。

皆さんはこういうこと、ないのだろうか?

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